この間、無料のビジュアルノベルを読みました。原文は英語ですが、私は何しろ日本語生活を決め込んでるので日本語翻訳のほうで読ませてもらいました。日本語の翻訳でも英語特有の言い回しがほとんどまる見えだったんで結構面白かったりしました。明らかに直訳で不自然なセリフがあちこちあったけれど、まあ無料だからそこは大目に見てあげることにするか。しかし読んでる間、気になることがありました。それは、「文字通り」っていう単語がやけに出てくるのです…怪しいほどにまで。それで、きっと何か特定の英単語の翻訳だと気づいて和英辞典を引いてみると、「literally」が出てきて、私は大笑いするのでした。
何がそんなにおかしかったのかというと、まずはいくつかこのゲームの「文字通り」を使ったセリフと自分がそれを読んだときに抱いた感想を提供したいと思います。そうすれば少しはお分かりいただけるかと思いますので。
| ゲームのセリフ | 感想 |
|---|---|
| 「あの悪魔めいた笑みを浮かべているときの彼女は、文字通り輝いていた」 | 放射能汚染なのでは? |
| 「彼女の瞳は、文字通り磁石のように僕の瞳を惹きつけた」 | ジェダイか? |
| 「人を文字通り石器時代に送り返しておいて、過剰反応も何もあるか!」 | すごい、何の前触れもなく一言でタイムトラベルものになったんだ。 |
| 「僕は文字通り心臓が胸から飛び出しそうだった」 | それは診てもらった方がいいよ。たぶんもう手遅れなんだけど。 |
日本人にはこれらのセリフがどう聞こえるかはわかりませんが、私はまずこんな風に違和感を覚えました。でも「文字通り」が「literally」の訳語だとわかった瞬間、道理でと激しく納得しました。
確かに「literally」は「文字通り」と同じ意味を持つ単語であるはずなんです…本来ならば、ね。しかし、ちょうど私の世代で、乱用に乱用を重ねてそれが少しずつ変わっていき、結局世間一般では「literally」はもはや強調や誇張のために使われる単語でしかないと言ってもいいくらいです、まさしく上記のセリフのように。滑稽な話でしょう?だって、本来とは真逆の意味合いになってるじゃないですか。でも私は確かに今まで「literally」の乱用を数え切れないほど見て、それに呆れつつもすっかり慣れてしまいました。今では辞書編集者たちさえも観念して2013年あたりからその定義を載せるようになっています。でもそれは日本語と関係があるはずもなく、だからそれが律儀に「文字通り」と翻訳されたところをあんなに変に感じたのです。
昔はそのような乱用は不快に感じていたが、今はもっと寛容になったつもりでいます。それは主に、大学で受けた言語学の授業で記述文法と規範文法の違いを学んだからです。詳しくはこちらをご覧になるといいですが、結論から言うと、規範文法からすれば文法の規則は「正しい(と誰かがあらかじめ決めつけた)から使うべき」なんだけど、記述文法からすれば規則は「実際にネイティブスピーカーが使っているからこそ成り立つ」のである。つまり、言語学者みたいに記述的な観点に立てば、さっき話していた「literally」のように言葉の使い方が移り変わるのはごく自然のことです。日本語では、ら抜き言葉とか、若者言葉というのがありますよね。そういうのを好ましく思わない人もいるかもしれません。確か、英語の外来語の使用が最近増えてきて不安になってる日本人もいるとかいないとか。気にするな、とまでは言いませんが、自然の摂理に腹を立てるのがお門違いだということだけは気に留めた方がいいかなと思います。
とは言え、べつに学校で学ぶ文法に価値がないわけではないと思います。公式的な文書を作成する時とかは、それを守らなければ読み手に真面目に読んでもらえないだろうし、社会的にはそういった基準は必要だと言わざるを得ません。ですが、それはあくまで礼儀作法とか、時と場合を考えての言葉選びと似たようなもので、べつに正しいか正しくないかの問題ではない、というのが私の考えです。例えば、ため口と敬語を適切に使い分けないと失礼に当たるが、どちらかが正しくどちらかが間違っている、なんてことにはならないでしょう。
要するに、言語学習者たるもの、堅苦しい文法なんか気にしないで、もっと実際の言葉遣いを観察するべきである、ってことです。野生動物は実際の生活を観察しないと何もわかりはしないように、言葉という生き物もまたしかりです。